ダニエル書 |「月の光」

トピック

ダニエルが生きた時代

◆ダニエル

 ダニエルは、BC6世紀、イスラエルが捕囚された時代に生きた預言者です。
 イスラエルを滅ぼしたバビロン帝国とそれに続くメディア・ペルシャ帝国で高級官僚として活躍しただけでなく、その後の歴史を予言した預言者でもありました。
 西暦前587年または586年、ネブカドネザルはエルサレムを滅ぼした。ラキシュやアゼカを含め、ユダの他の都市も征服した。ネブカドネザルは、生き残った人々の大半をバビロンに強制移住させ、人々は捕囚にされる。
 流刑の後、ユダヤ人はアケメネス朝ペルシャの初代の王キュロス2世によって解放され、故国に戻ってエルサレムで神殿を建て直すことを許される。
 ユダの捕囚民の大部はバビロニアにあるニップル市そばの灌漑用運河であるケバル川沿いに移住させられた(『エゼキエル書』による)。
 この地域はかつてアッシリア人の要塞があったが、新バビロニア勃興時の戦いによって荒廃しており、ユダヤ人の移住先にここが選ばれたのは減少した人口を補うためであったと考えられる。一方で職人など熟練労働者はバビロン市に移住させられ主としてネブカドネザル2世が熱心に行っていた建設事業に従事することになった。
 『エゼキエル書』などの記録から、当初ユダの捕囚民達はこのバビロニアへの強制移住は一時的なものであり、間をおかず新バビロニアは滅亡して故国へ帰還できるという楽観論を持っていたといわれている。
 これに対しエレミヤとエゼキエルはエルサレム神殿の破滅が近いことを預言し、繰り返し警告を与えた。しかし、「救いの預言者」と呼ばれた人々は、楽観論を吹聴してまわり、捕囚民達は滅びの預言に耳を傾けることはなかった。
 しかし、上述した如く紀元前586年にエルサレム神殿が破壊されると、ユダの捕囚民に広がっていた楽観論は粉砕された。

◆エレミヤ

 エレミヤは旧約聖書の『エレミヤ書』に登場する古代ユダヤの預言者。
 イエレミヤとも表記する。
 紀元前7世紀末から紀元前6世紀前半の、バビロン捕囚の時期に活動した。父はアナトトの祭司ヒルキヤ。アナトトはベニヤミン族の地にあった祭司たちの町であった。このことからエレミヤの家系は、ダビデ王の死去後に対立後継者アドニヤをたてたことを理由にソロモン王から祭司を罷免させられ、アナトトに追放された祭司アビアタルにつながるものであると思われる。
 旧約聖書のうち『エレミヤ書』と並んで、『哀歌』もエレミヤの作とされている。
 『エレミヤ書』は『イザヤ書』『エゼキエル書』とならんで3大預言書のひとつとされ、旧約時代の預言者のなかでも、重要視される人物の一人である。

◆エゼキエル

 エゼキエルは、旧約聖書に登場する紀元前6世紀頃のバビロン捕囚時代におけるユダヤ人の預言者である。
 エゼキエルの生涯に関してはエゼキエル書以外に記載は無く、そのエゼキエル書も個人的な記述が非常に少ないために不明な部分が多い。
 わかっているのはエゼキエルは祭司であり、父親をブジと言い、捕囚民の長老たちから相談を受ける存在であったことから、おそらく祭司の家系であっただろうと言われていること。そして紀元前597年の最初のバビロン捕囚において強制移送された一人であり、バビロンのケバル河畔のテルアビブの難民社会に住んでいたこと。また、妻がエルサレムの陥落前夜に亡くなった事ぐらいである。

第1章 バビロンの王・ネブカドネザル

第2章 ネブカドネザルの夢

〔2:1〕ネブカデネザルの治世の第二年に、ネブカデネザルは夢を見、そのために心に思い悩んで眠ることができなかった。 〔2:2〕そこで王は命じて王のためにその夢を解かせようと、博士、法術士、魔術士、カルデヤびとを召させたので、彼らはきて王の前に立った。
〔2:3〕王は彼らにむかって、
「わたしは夢を見たが、その夢を知ろうと心に思い悩んでいる」
と言ったので、 〔2:4〕カルデヤびとらはアラム語で王に言った、
「王よ、とこしえに生きながらえられますように。どうぞしもべらにその夢をお話しください。わたしたちはその解き明かしを申しあげましょう」。
〔2:5〕王は答えてカルデヤびとに言った、
「わたしの言うことは必ず行う。あなたがたがもしその夢と、その解き明かしを、わたしに示さないならば、あなたがたの身は切り裂かれ、あなたがたの家は滅ぼされる。 〔2:6〕しかし、その夢とその解き明かしとを示すならば、贈り物と報酬と大いなる栄誉とを、わたしから受けるだろう。それゆえその夢とその解き明かしとを、わたしに示しなさい」。
〔2:7〕彼らは再び答えて言った、
「王よ、しもべらにその夢をお話しください。そうすればわたしたちはその解き明かしを示しましょう」。
〔2:8〕王は答えて言った、
「あなたがたはわたしが言ったことは、必ず行うことを承知しているので、時を延ばそうとしているのを、わたしは確かに知っている。 〔2:9〕もしその夢をわたしに示さないならば、あなたがたの受ける刑罰はただ一つあるのみだ。あなたがたは一致して、偽りと、欺きの言葉をわたしの前に述べて、時の変るのを待とうとしているのだ。まずその夢をわたしに示しなさい。そうすれば、わたしはあなたがたがその解き明かしをも、示しうることを知るだろう」。
〔2:10〕カルデヤびとらは王の前に答えて言った、
「世の中には王のその要求に応じうる者はひとりもありません。どんな大いなる力ある王でも、このような事を、博士、法術士、カルデヤびとに尋ねた者はありませんでした。 〔2:11〕王の尋ねられる事はむずかしい事であって、肉なる者と共におられない神々を除いては、王の前にこれを示しうる者はないでしょう」。
〔2:12〕これによって王は怒り、かつ大いに憤り、バビロンの知者をすべて滅ぼせと命じた。


〔2:13〕この命令が発せられたので、知者らは殺されることになった。またダニエルとその同僚をも殺そうと求めた。 〔2:14〕そして王の侍衛の長アリオクが、バビロンの知者らを殺そうと出てきたので、ダニエルは思慮と知恵とをもってこれに応答した。 〔2:15〕すなわち王の高官アリオクに
「どうして王はそんなにきびしい命令を出されたのですか」
と言った。アリオクがその事をダニエルに告げ知らせると、 〔2:16〕ダニエルは王のところへはいっていって、その解き明かしを示すために、しばらくの時を与えられるよう王に願った。
〔2:17〕それからダニエルは家に帰り、同僚のハナニヤ、ミシャエルおよびアザリヤにこの事を告げ知らせ、 〔2:18〕共にこの秘密について天の神のあわれみを請い、ダニエルとその同僚とが、他のバビロンの知者と共に滅ぼされることのないように求めた。 〔2:19〕ついに夜の幻のうちにこの秘密がダニエルに示されたので、ダニエルは天の神をほめたたえた。
〔2:20〕ダニエルは言った、
「神のみ名は永遠より永遠に至るまでほむべきかな、
知恵と権能とは神のものである。
〔2:21〕神は時と季節とを変じ、
王を廃し、王を立て、
知者に知恵を与え、
賢者に知識を授けられる。
〔2:22〕神は深妙、秘密の事をあらわし、
暗黒にあるものを知り、
光をご自身のうちに宿す。
〔2:23〕わが先祖たちの神よ、
あなたはわたしに知恵と力とを賜い、
今われわれがあなたに請い求めたところのものをわたしに示し、
王の求めたことをわれわれに示されたので、
わたしはあなたに感謝し、あなたをさんびします」。
〔2:24〕そこでダニエルは、王がバビロンの知者たちを滅ぼすことを命じておいたアリオクのもとへ行って、彼にこう言った、
「バビロンの知者たちを滅ぼしてはなりません。わたしを王の前に連れて行ってください。わたしはその解き明かしを王に示します」。


〔2:25〕アリオクは急いでダニエルを王の前に連れて行き、王にこう言った、
「ユダから捕え移した者の中に、その解き明かしを王にお知らせすることのできる、ひとりの人を見つけました」。
〔2:26〕王は答えて、ベルテシャザルという名のダニエルに言った、
「あなたはわたしが見た夢と、その解き明かしとをわたしに知らせることができるのか」。
〔2:27〕ダニエルは王に答えて言った、
「王が求められる秘密は、知者、法術士、博士、占い師など、これを王に示すことはできません。 〔2:28〕しかし秘密をあらわすひとりの神が天におられます。彼は後の日に起るべき事を、ネブカデネザル王に知らされたのです。あなたの夢と、あなたが床にあって見た脳中の幻はこれです。 〔2:29〕王よ、あなたが床におられたとき、この後どんな事があろうかと、思いまわされたが、秘密をあらわされるかたが、将来どんな事が起るかを、あなたに知らされたのです。
〔2:30〕この秘密をわたしにあらわされたのは、すべての生ける者にまさって、わたしに知恵があるためではなく、ただその解き明かしを、王にお知らせすることによって、あなたが心に思われたことを、お知りになるためです。
〔2:31〕王様、あなたは一つの像をご覧になられました。その像は巨大で、非常に輝き、あなたの前に立ち、見るも恐ろしいものでした。 〔2:32〕それは頭が純金胸と腕が銀腹と腿が青銅、 〔2:33〕すねが鉄足は一部が鉄、一部が陶土でできていました。 〔2:34〕見ておられると、一つの石が人手によらずに切り出され、その像の鉄と陶土の足を打ち砕きました。
〔2:35〕鉄も陶土も、青銅も銀も金も共に砕け、夏の打穀場のもみがらのようになり、風に吹き払われ、跡形もなくなりました。その像を打った石は大きな山となり、全地に広がったのです。
〔2:36〕これが王様のご覧になった夢です。さて、その解釈をいたしましょう。 〔2:37〕王様、あなたは全ての王の王です。天の神はあなたに、国と権威と威力と威光を授け、 〔2:38〕人間も野の獣も空の鳥も、どこに住んでいようとあなたの手にゆだね、このすべてを治めさせられました。すなわち、あなたがその金の頭なのです。 〔2:39〕あなたのあとに他の国が興りますが、これはあなたに劣るもの。その次に興る第三の国は青銅で、全地を支配します。 〔2:40〕第四の国は鉄のように強い。鉄はよくすべてを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように強い。鉄は全てを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように、この国は破壊を重ねます。 〔2:41〕足と足指は一部が陶工が用いる陶土、一部が鉄であるのをご覧になりましたが、そのようにこの国は分裂しています。鉄が柔らかい陶土と混じっているのをご覧になったように、この国には鉄の強さもあります。 〔2:42〕足指は一部が鉄、一部が陶土です。 すなわち、この国には強い部分もあれば、もろい部分もあるのです。 〔2:43〕また、鉄が柔らかい陶土と混じり合っているのをご覧になったように、人々は婚姻によって混じり合います。しかし、鉄と陶土が溶け合うことがないように、一つになることはありません。 〔2:44〕この王たちの時代に、天の神は一つの国を興されます。この国は永遠に滅びることなく、その主権は他の民の手に渡ることなく、すべての国を打ち滅ぼし、永遠に続きます。 〔2:45〕山から人手によらず切り出された石が、鉄、青銅、陶土、銀、金をを打つのをご覧になりましたが、それによって、偉大な神は引き続き起こることを王様にお知らせになったのです。この夢は確かであり、解釈もまちがいありません」。
〔2:44〕この王たちの時代に、天の神は一つの国を興されます。この国は永遠に滅びることなく、その主権は他の民の手に渡ることなく、すべての国を打ち滅ぼし、永遠に続きます。
 セラミックス(粘土・陶土)。1980年代以降、ファインセラミックスに相当するものを「セラミックス」と呼ぶことが多い。
 ダニエル書が想定している時代は、1980年代以降の時代になっていて、
「この王たちの時代に、天の神は一つの国を興されます」

 とダニエルは告げている。

 2022年、かむやまといわれひこのみこと(神倭伊波礼比古尊)が神様世界に即位される、
 と2017年8月に神様から聞いている。

【京セラのホームページから引用】

 20世紀に入るとラジオ放送の開始、テレビ放送の開始、トランジスタの発明などエレクトロニクスの時代を迎えます。その時代を支えたのが新しいセラミックスでした。
 まず使われたのが、20世紀前半の大型真空管用セラミックスです。無線機器に使用され、高い周波数で使用しても高い出力が得られるセラミックスの特性はほかの材料では変えることができないものとなりました。
 また、材料としてのセラミックスも大きな進歩を遂げます。天然の原料に加えて人工的に合成した原料が使われ始めたほか、金属材料と強固に接合するための技術も開発され、現在のファインセラミックスに大きく近づいてきました。
 エレクトロニクス時代の中核的な部品「半導体」、この“産業の米”と呼ばれる産業を支えたのもセラミックスでした。戦後すぐにアメリカでトランジスタやICが開発されましたが、当時、外部からの湿気や強い光などに対して極端に弱く、そのままでは産業用に使用することはできませんでした。トランジスタやICの電気的な特性はそのままに、外部からの湿気や光を遮断することができたのが、セラミックパッケージでした。このパッケージがあってはじめて半導体は広く使われるようになったといっても過言ではありません。
 電子部品として、コンデンサやインダクターを小型化したのもセラミックスです。
 20世紀の半ばから、セラミックスの持つ誘電性や磁性など大きく特性を改良したセラミックスが次々に開発され、電子部品は急速に小型化、高性能化を図ることができるようになりました。ひいては、電子機器そのものの小型化に、セラミックスはたいへん貢献したと言えます。コンデンサをセラミックスでつくることがなければ、現在のようなポケットに入る携帯電話の存在はなかったはずです。
 今、携帯電話には1 台あたり200個以上のセラミックコンデンサが使われています。
 精選または合成された原料粉末を用いて、管理された工程でつくられる高精度の工業用材料として、従来の焼きものとは一線を画した「ファインセラミックス」がこの時代に誕生しました。

【参考までに】

 三番目の王国は、ネブカデネザル王以降に現われる国だ。
 ダニエル8章の預言の幻によると、メディア・ペルシャ帝国を滅ぼすギリシャ帝国です。(ダニエル8:5〜7、20、21)また、ギリシャの「第一の王」が倒れて、「四つの王国」が立ちます(ダニエル8:22)。
 ですから、メディア・ペルシャ帝国に次ぐ銅の王国とはギリシャ帝国とそれから派生した王国ということになるでしょう。
 ネブカデネザルの夢の像の四番目の王国の特徴について、ダニエルは次のように説明します。 「そして、四番目の王国ですが、それは鉄のように強いものとなります。・・・これもそれらのすべてを打ち砕いて粉砕します。」(ダニエル2:40)
 この四番目の王国とダニエル7章に登場する「四番目の獣」は、大変似ています。(ダニエル7:7、23)その「四番目の獣」は、「際立って強いもの」でした。それには、「鉄の歯」があり、「それはむさぼり食い」ました。(ダニエル7:7)
 実際の歴史を振り返ると、四番目の王国とは、行く手にあるものをことごとく軍事力によって服従させていったローマ帝国です。ローマ帝国は西暦前2世紀に、ギリシャ諸国家を滅ぼして、ローマの属州にしました。


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〔2:46〕そこでネブカデネザル王はひれ伏して、ダニエルを拝し、供え物と薫香とを、彼にささげることを命じた。 〔2:47〕そして王はダニエルに答えて言った、
「あなたがこの秘密をあらわすことができたのを見ると、まことに、あなたがたの神は神々の神、王たちの主であって、秘密をあらわされるかただ」。
〔2:48〕こうして王はダニエルに高い位を授け、多くの大いなる贈り物を与えて、彼をバビロン全州の総督とし、またバビロンの知者たちを統轄する者の長とした。 〔2:49〕王はまたダニエルの願いによって、シャデラクとメシャクとアベデネゴを任命して、バビロン州の事務をつかさどらせた。ただしダニエルは王の宮にとどまっていた。


第4章 ネブカドネザルの夢

〔4:1〕ネブカデネザル王は全世界に住む諸民、諸族、諸国語の者に告げる。どうか、あなたがたに平安が増すように。 〔4:2〕いと高き神はわたしにしるしと奇跡とを行われた。わたしはこれを知らせたいと思う。
〔4:3〕ああ、そのしるしの大いなること、
ああ、その奇跡のすばらしいこと、
その国は永遠の国、
その主権は世々に及ぶ。
〔4:4〕われネブカデネザルはわが家に安らかにおり、わが宮にあって栄えていたが、 〔4:5〕わたしは一つの夢を見て、そのために恐れた。すなわち床にあって、その事を思いめぐらし、わが脳中の幻のために心を悩ました。 〔4:6〕そこでわたしは命令を下し、バビロンの知者をことごとくわが前に召し寄せて、その夢の解き明かしを示させようとした。




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〔4:7〕すると、博士、法術士、カルデヤびと、占い師たちがきたので、わたしはその夢を彼らに語ったが、彼らはその解き明かしを示すことができなかった。 〔4:8〕最後にダニエルがわたしの前にきた、――彼の名はわが神の名にちなんで、ベルテシャザルととなえられ、彼のうちには聖なる神の霊がやどっていた――わたしは彼にその夢を語って言った、
〔4:9〕「博士の長ベルテシャザルよ、わたしは知っている。聖なる神の霊があなたのうちにやどっているから、どんな秘密もあなたにはむずかしいことはない。ここにわたしが見た夢がある。その解き明かしをわたしに告げなさい。 〔4:10〕わたしが床にあって見た脳中の幻はこれである。わたしが見たのに、地の中央に一本の木があって、そのたけが高かったが、 〔4:11〕その木は成長して強くなり、天に達するほどの高さになって、地の果までも見えわたり、 〔4:12〕その葉は美しく、その実は豊かで、すべての者がその中から食物を獲、また野の獣はその陰にやどり、空の鳥はその枝にすみ、すべての肉なる者はこれによって養われた。
〔4:13〕わたしが床にあって見た脳中の幻の中に、ひとりの警護者、ひとりの聖者の天から下るのを見たが、 〔4:14〕彼は声高く呼ばわって、こう言った、
『この木を切り倒し、その枝を切りはらい、その葉をゆり落し、その実を打ち散らし、獣をその下から逃げ去らせ、鳥をその枝から飛び去らせよ。 〔4:15〕ただしその根の切り株を地に残し、それに鉄と青銅のなわをかけて、野の若草の中におき、天からくだる露にぬれさせ、また地の草の中で、獣と共にその分にあずからせよ。 〔4:16〕またその心は変って人間の心のようでなく、獣の心が与えられて、七つの時を過ごさせよ。 〔4:17〕この宣言は警護者たちの命令によるもの、この決定は聖者たちの言葉によるもので、いと高き者が、人間の国を治めて、自分の意のままにこれを人に与え、また人のうちの最も卑しい者を、その上に立てられるという事を、すべての者に知らせるためである』
と。
〔4:18〕われネブカデネザル王はこの夢を見た。ベルテシャザルよ、あなたはその解き明かしをわたしに告げなさい。わが国の知者たちは、いずれもその解き明かしを、わたしに示すことができなかったけれども、あなたにはそれができる。あなたのうちには、聖なる神の霊がやどっているからだ」。
〔4:19〕その時、その名をベルテシャザルととなえるダニエルは、しばらくのあいだ驚き、思い悩んだので、王は彼に告げて言った、
「ベルテシャザルよ、あなたはこの夢と、その解き明かしのために、悩むには及ばない」。
ベルテシャザルは答えて言った、
「わが主よ、どうか、この夢は、あなたを憎む者にかかわるように。この解き明かしは、あなたの敵に臨むように。 〔4:20〕あなたが見られた木、すなわちその成長して強くなり、天に達するほどの高さになって、地の果までも見えわたり、 〔4:21〕その葉は美しく、その実は豊かで、すべての者がその中から食物を獲、また野の獣がその陰にやどり、空の鳥がその枝に住んだ木、 〔4:22〕王よ、それはすなわちあなたです。あなたは成長して強くなり、天に達するほどに大きくなり、あなたの主権は地の果にまで及びました。 〔4:23〕ところが、王はひとりの警護者、ひとりの聖者が、天から下って、こう言うのを見られました、
『この木を切り倒して、これを滅ぼせ。ただしその根の切り株を地に残し、それに鉄と青銅のなわをかけて、野の若草の中におき、天からくだる露にぬれさせ、また野の獣と共にその分にあずからせて、七つの時を過ごさせよ』
と。
〔4:24〕王よ、その解き明かしはこうです。すなわちこれはいと高き者の命令であって、わが主なる王に臨まんとするものです。 〔4:25〕すなわちあなたは追われて世の人を離れ、野の獣と共におり、牛のように草を食い、天からくだる露にぬれるでしょう。こうして七つの時が過ぎて、ついにあなたは、いと高き者が人間の国を治めて、自分の意のままに、これを人に与えられることを知るに至るでしょう。 〔4:26〕また彼らはその木の根の切り株を残しおけと命じたので、あなたが、天はまことの支配者であるということを知った後、あなたの国はあなたに確保されるでしょう。 〔4:27〕それゆえ王よ、あなたはわたしの勧告をいれ、義を行って罪を離れ、しえたげられる者をあわれんで、不義を離れなさい。そうすれば、あるいはあなたの繁栄が、長く続くかもしれません」。
〔4:28〕この事は皆ネブカデネザル王に臨んだ。 〔4:29〕十二か月を経て後、王がバビロンの王宮の屋上を歩いていたとき、 〔4:30〕王は自ら言った、
「この大いなるバビロンは、わたしの大いなる力をもって建てた王城であって、わが威光を輝かすものではないか」。
〔4:31〕その言葉がなお王の口にあるうちに、天から声がくだって言った、
「ネブカデネザル王よ、あなたに告げる。国はあなたを離れ去った。 〔4:32〕あなたは、追われて世の人を離れ、野の獣と共におり、牛のように草を食い、こうして七つの時を経て、ついにあなたは、いと高き者が人間の国を治めて、自分の意のままに、これを人に与えられることを知るに至るだろう」。
〔4:33〕この言葉は、ただちにネブカデネザルに成就した。彼は追われて世の人を離れ、牛のように草を食い、その身は天からくだる露にぬれ、ついにその毛は、わしの羽のようになり、そのつめは鳥のつめのようになった。
〔4:34〕こうしてその期間が満ちた後、われネブカデネザルは、目をあげて天を仰ぎ見ると、わたしの理性が自分に帰ったので、わたしはいと高き者をほめ、その永遠に生ける者をさんびし、かつあがめた。
その主権は永遠の主権、
その国は世々かぎりなく、
〔4:35〕地に住む民はすべて無き者のように思われ、
天の衆群にも、
地に住む民にも、
彼はその意のままに事を行われる。
だれも彼の手をおさえて
「あなたは何をするのか」と言いうる者はない。
〔4:36〕この時わたしの理性は自分に帰り、またわが国の光栄のために、わが尊厳と光輝とが、わたしに帰った。わが大臣、わが貴族らもきて、わたしに求め、わたしは国の上に堅く立って、前にもまさって大いなる者となった。 〔4:37〕そこでわれネブカデネザルは今、天の王をほめたたえ、かつあがめたてまつる。そのみわざはことごとく真実で、その道は正しく、高ぶり歩む者を低くされる。


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第8章 雄羊(ペルシャ)と雄やぎ(ギリシャ)の幻

〔8:1〕われダニエルは先に幻を見たが、後またベルシャザル王の治世の第三年に、一つの幻がわたしに示された。 〔8:2〕その幻を見たのは、エラム州の首都スサにいた時であって、ウライ川のほとりにおいてであった。 〔8:3〕わたしが目をあげて見ると、川の岸に一匹の雄羊が立っていた。これに二つの角があって、その角は共に長かったが、一つの角は他の角よりも長かった。その長いのは後に伸びたのである。 〔8:4〕わたしが見ていると、その雄羊は、西、北、南にむかって突撃したが、これに当ることのできる獣は一匹もなく、またその手から救い出すことのできるものもなかった。これはその心のままにふるまい、みずから高ぶっていた。
〔8:5〕わたしがこれを考え、見ていると、一匹の雄やぎが、全地のおもてを飛びわたって西からきたが、その足は土を踏まなかった。このやぎには、目の間に著しい一つの角があった。 〔8:6〕この者は、さきにわたしが川の岸に立っているのを見た、あの二つの角のある雄羊にむかってきて、激しく怒ってこれに走り寄った。 〔8:7〕わたしが見ていると、それが雄羊に近寄るや、これにむかって怒りを発し、雄羊を撃って、その二つの角を砕いた。雄羊には、これに当る力がなかったので、やぎは雄羊を地に打ち倒して踏みつけた。また、その雄羊を、やぎの力から救いうる者がなかった。 〔8:8〕こうして、その雄やぎは、はなはだしく高ぶったが、その盛んになった時、あの大きな角が折れて、その代りに四つの著しい角が生じ、天の四方に向かった。
(1) エジプト帝国(紀元前一六〇〇〜一四〇〇年)
(2) アッシリヤ帝国(紀元前七二一〜六〇七年)
(3) バビロン帝国(紀元前六〇六〜五三六年)
(4) ペルシャ帝国(紀元前五三六〜三三〇年)
(5) ギリシャ帝国(紀元前三三〇〜一四六年)
(6) ローマ帝国(紀元前一四六〜紀元一四五三年)

(7) トルコ帝国(一〇三八〜一九二二年)

 紀元前三三一年、あの有名な古代の王アレキサンドロス大王は、破竹の勢いで中東一帯を征服し、ギリシャ帝国を建設しました。
 しかしそのギリシャ帝国も、大王の死後は、四つに分裂。
 ギリシャ、
 小アジア、
 シリア、
 エジプト
 ・・・の四つの国に分かれました。



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〔8:9〕その角の一つから、一つの小さい角が出て、南に向かい、東に向かい、麗しい地に向かって、はなはだしく大きくなり、 〔8:10〕天の衆群に及ぶまでに大きくなり、星の衆群のうちの数個を地に投げ下して、これを踏みつけ、 〔8:11〕またみずから高ぶって、その衆群の主に敵し、その常供の燔祭を取り除き、かつその聖所を倒した。 〔8:12〕そしてその衆群は、罪によって、常供の燔祭と共に、これにわたされた。その角はまた真理を地に投げうち、ほしいままにふるまって、みずから栄えた。 〔8:13〕それから、わたしはひとりの聖者の語っているのを聞いた。またひとりの聖者があって、その語っている聖者にむかって言った、「常供の燔祭と、荒すことをなす罪と、聖所とその衆群がわたされて、足の下に踏みつけられることについて、幻にあらわれたことは、いつまでだろうか」と。 〔8:14〕彼は言った、
「二千三百の夕と朝の間である。そして聖所は清められてその正しい状態に復する」。
〔8:15〕われダニエルはこの幻を見て、その意味を知ろうと求めていた時、見よ、人のように見える者が、わたしの前に立った。 〔8:16〕わたしはウライ川の両岸の間から人の声が出て、呼ばわるのを聞いた、
「ガブリエルよ、この幻をその人に悟らせよ」。
〔8:17〕すると彼はわたしの立っている所にきた。彼がきたとき、わたしは恐れて、ひれ伏した。しかし、彼はわたしに言った、
「人の子よ、悟りなさい。この幻は終りの時にかかわるものです」。
〔8:18〕彼がわたしに語っていた時、わたしは地にひれ伏して、深い眠りに陥ったが、彼はわたしに手を触れ、わたしを立たせて、 〔8:19〕言った、
「見よ、わたしは憤りの終りの時に起るべきことを、あなたに知らせよう。それは定められた終りの時にかかわるものであるから。 〔8:20〕あなたが見た、あの二つの角のある雄羊は、メデアとペルシャの王です。 〔8:21〕また、かの雄やぎはギリシヤの王です、その目の間の大きな角は、その第一の王です。 〔8:22〕またその角が折れて、その代りに四つの角が生じたのは、その民から四つの国が起るのです。しかし、第一の王のような勢力はない。 〔8:23〕彼らの国の終りの時になり、罪びとの罪が満ちるに及んで、ひとりの王が起るでしょう。その顔は猛悪で、彼はなぞを解き、 〔8:24〕その勢力は盛んであって、恐ろしい破壊をなし、そのなすところ成功して、有力な人々と、聖徒である民を滅ぼすでしょう。 〔8:25〕彼は悪知恵をもって、偽りをその手におこない遂げ、みずから心に高ぶり、不意に多くの人を打ち滅ぼし、また君の君たる者に敵するでしょう。しかし、ついに彼は人手によらずに滅ぼされるでしょう。 〔8:26〕先に示された朝夕の幻は真実です。しかし、あなたはその幻を秘密にしておかなければならない。これは多くの日の後にかかわる事だから」
〔8:27〕われダニエルは疲れはてて、数日の間病みわずらったが、後起きて、王の事務を執った。しかし、わたしはこの幻の事を思って驚いた。またこれを悟ることができなかった。

◆シリアの暴君エピファネス (在位紀元前175〜163年)◆

 アンティオコス四世・エピファネスという名を、知らない人も多いかも知れません。しかしこの悪名高い名は、ユダヤ人の間では、忘れようとしても決して忘れられない名です。
 エピファネスは、紀元前二世紀にユダヤの聖なる神殿を荒らした人物で、そこにギリシャの神ゼウスの偶像という「荒らす憎むべきもの」を設置した者です。
 今日もユダヤ人は、毎年一二月頃に「ハヌカ」と呼ばれる「宮きよめの祭」をもっています。これは、かつてユダヤの神殿を、暴君エピファネスから解放し、清めた時のことを記念した祭です。
 「宮きよめの祭」は、イエス初臨の時代にも、ユダヤで毎年守られていました(ヨハ一〇・二二)。ユダヤ人は暴君エピファネスのことを、つねに心に刻み込んできたのです。
 さて、ダニエル書の預言を見る前に、エピファネスがどういう人物だったかということを、詳しく見ておきましょう。
 アンティオコス四世・エピファネスは、このうちのシリアを治めた、歴代の君主たちの一人です(在位紀元前175〜163年)。
「アンティオコス」の名を冠した君主は、全部で26人います。エピファネスは、アンティオコス四世として君臨したのです。
 「エピファネス」の名は「現神王」の意味で、その名のとおり彼は自分を神とし、自分を神と崇めるよう人々に強要しました。しかし人々は彼を皮肉って、「エピマネス」(狂人の意)とも呼びました。
 エピファネスが支配したシリアという国は、ユダヤの国の北隣に位置しています。
 一方、南隣には、やはりギリシャ帝国から分かれ出たエジプトの国がありました。
 それで旧約聖書のダニエル書の中では、エピファネスをはじめとするシリアの王は「北の王」と呼ばれ、一方エジプトの王は「南の王」と呼ばれています。
 さて、紀元前175年にエピファネスは、裏切りによってシリアの王位を手に入れました。
 その後彼は、南のエジプトに対する優位を決定的なものにするために、エジプトに出兵。エジプトを手中におさめました。
 この頃からエピファネスは、ユダヤのエルサレム神殿の調度品に、手を出していました。
 彼はかさむ戦費をまかなうために、その神殿から、多くの金の調度品を盗み出しました。しかも、異邦人には禁制の場所であった神殿の内部にまでも足を踏み入れ、神殿を汚したのです。
 当時、エルサレムにあった神殿は、「第二神殿」(ゼルバベル神殿)と呼ばれるものでした。
 エピファネスは、紀元前168年になって再度エジプトに侵入しました。
 しかしこの時は、ローマの艦隊の介入があり、撤退を余儀なくされました。
 エピファネスは腹いせに、エルサレムに戻り、その城壁をこわして家々に火を放ちました。また八万のユダヤ人を殺し、四万人を捕囚とし、さらに四万人の女・子どもを奴隷として売り払いました。
 彼は、反抗するユダヤ人を徹底的に弾圧。
 ユダヤ人に対して、
 ・神殿での犠牲の奉献や、
 ・安息日の遵守、
 ・割礼の執行、
 ・律法の書の所持
 ・・・などの行為のすべてを、禁止しました。
 そしてこれらの命令に背く者に対しては、死罪をもって報いたのです。
 しかもエピファネスは、エルサレム神殿に、ギリシャの多神教の主神である「ゼウス神」を祭りました。彼はその偶像を聖なる神殿に置き、その祭儀に人々が参加するよう強要したのです。
 こうして彼は、神聖なユダヤの神殿を無残にも踏みにじった悪名高い人物として、すべてのユダヤ人の間で記憶されています。

◆ダニエル書には、エピファネスに関する預言がある◆

 この当時の歴史については、「マカベア書」という古代ユダヤ文書に、とくに詳しく記されています。
 最近プロテスタントとカトリックの学者が共同で訳した「新共同訳聖書」には、旧約聖書の続編として、この「マカベア書」が入っています。
 「マカベア書」というのは、旧約聖書の正典に組み入れられなかった書物ですが、当時のエピファネスの行動を知る上で、重要な歴史書です。またこの書には、エピファネスの支配下からエルサレムを取り戻し、神殿を清めたユダヤ人の英雄「マカベアのユダ」についても記されています。
 旧約聖書の正典にも、エピファネスのことが記されています。旧約の『ダニエル書』には、彼のことが預言の形で記されているのです。
 ダニエル書は、紀元前六世紀に、預言者ダニエルが記したものです。
 近代の懐疑的な批評学者の中には、この書は紀元前二世紀に書かれたと主張した者もいますが、この書が事実紀元前六世紀に記されたことは、多くの学者の研究によって充分立証されています。ダニエル書は、エピファネスより四百年も前に記された、預言の書なのです。
 さてダニエル書には、エピファネスとその前後の歴史について、次のように記されています。
 「私ダニエルにまた、一つの幻が現われた。・・・・見ると、なんと一頭の雄羊(ペルシャ帝国をさす)が川岸に立っていた。それには二本の角があった(ペルシャ帝国がメディアとペルシャの連合体であったことをさす)。
 ・・・・
 私が注意して見ていると、見よ、一頭の雄やぎ(ギリシャ帝国)が、地には触れずに、全土を飛び回って、西からやって来た。その雄やぎには、目と目の間に、著しく目立つ一本の角(アレキサンドロス大王)があった。
 ・・・・
 雄やぎは雄羊に近づき、怒り狂って、この雄羊を打ち殺した(ペルシャ帝国の滅亡)。
 ・・・・
 この雄やぎは非常に高ぶったが、その強くなった時に、あの大きな角が折れた(アレキサンドロス大王の死亡)。
 そしてその代わりに、天の四方に向かって、著しく目立つ四本の角が生え出た(ギリシャは四つの国に分裂した)。
 そのうちの一本の角(シリアの王)から、また一本の小さな角(エピファネス)が芽を出して、南(エジプト)と、東と、麗しい国(ユダヤ)とに向かって、非常に大きくなっていった。
 それは大きくなって・・・・軍勢の長にまでのし上がった。それによって、(エルサレム神殿の)常供のささげ物(犠牲)は取り上げられ、その聖所の基はくつがえされる。軍勢は渡され、常供のささげ物に代えて、そむきの罪がささげられた。
 その角は真理を地に投げ捨て、ほしいままにふるまって、それをなし遂げた」(ダ8-1〜12)。
 ダニエルが見たこの夢に関して、ところどころに( )をして説明を入れましたが、これは私が勝手に入れたわけではありません。ダニエル書自体が、夢の意味について次のような解き明かしをしているので、それに基づいて入れたものなのです。
 「あなたが見た雄羊の持つあの二本の角は、メディアとペルシャの王である。
 毛深い雄やぎはギリシャの王であって、その目と目の間にある大きな角は、その第一の王(アレキサンドロス大王)である。
 その角が折れて、代わりに四本の角が生えたが、それはこの国から四つの国が起こることである。しかし第一の王のような勢力はない。
 彼らの治世の終わりに、彼らのそむきが窮まるとき、横柄で狡猾なひとりの王(エピファネス)が立つ。
 彼の力は強くなるが、彼自身の力によるのではない。彼はあきれ果てるような破壊を行ない、事をなして成功し、有力者たちと聖徒の民を滅ぼす。
 彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君(神)に向かって立ち上がる。しかし人手によらずに、彼は砕かれる」(ダ8-20〜26)。  このような預言が、エピファネスの現われる四百年も前に記されていたとは、まことに驚くべきことです。
 この預言の中で、帝国は"動物"で象徴され、王はその「角」で表されています。そして最後に現われた「小さな角」は、やがて大きくなり、高ぶって卑劣なことをなしました。
 この最後の「角」こそ、アンティオコス四世・エピファネスのことなのです。

◆エピファネスはユダヤ神殿に「荒らす憎むべきもの」を据えた◆

 ダニエル書11章にはまた、エピファネスの行動について、さらに詳しいことが預言されています。
 こう書かれています。
 「ひとりの卑劣な者(エピファネス)が起こる。
 ・・・・
 彼は再び南へ攻めていくが(エジプトへの二度目の侵攻をさす)、この二度目は、初めの時のようではない。
 キティムの船(ローマの艦隊)が彼に立ち向かって来るので、彼は落胆して引き返し、聖なる契約(モーセの契約)にいきりたち、ほしいままにふるまう。
 彼は帰って行って、その聖なる契約を捨てた者たちを、重く取り立てるようになる(エピファネスは、ユダヤ人背教者を重く取り立てた)。
 彼の軍隊は立ち上がり、聖所(エルサレム神殿)ととりで(エルサレム城壁)を汚し、常供のささげ物を取り除き(いけにえを禁止)、荒らす忌むべきものを据える(エピファネスによって神殿に置かれた偶像のこと)」(ダ11-21〜31)。

 このようにダニエル書は、ギリシャ帝国から分かれ出た四つの国のひとつから「ひとりの卑劣な者」が起こること、また二度目のエジプト侵攻の後に彼は神殿を汚すこと、また神殿に偶像を置くことなどを、預言していました。
 これらはみな、紀元前二世紀のアンティオコス四世・エピファネスの出来事として成就したのです。
 しかし、ダニエルの預言がもし単にこれだけなら、私たちはこれを過去に成就した預言の一例として、心にとどめて終わりになるところでしょう。
 ところが、ダニエル書によればこのエピファネスに関する預言は、単に紀元前二世紀の出来事をもってすべてが成就し尽くしたのではなく、なお、
「終わりの定めの時にかかわる」(ダ8-20)
ことだと言われているのです。
紀元前二世紀のエピファネスの出来事は、預言成就の"第一段階"にすぎない。"第二段階"あるいは"最終段階"の成就は、世の終末が間近になった時代に起こる、というのです。

 これは、私たちの主イエス・キリストの御言葉も裏づけています。キリストは、終末が間近になった時代のことについて、次のように語られました。
 「それゆえ預言者ダニエルによって語られたあの『荒らす憎むべきもの』が、聖なる所(神殿)に立つのを見たならば・・・・」(マタ二四・一五)。
 この「荒らす憎むべきもの」と、先の「荒らす忌むべきもの」とは、単なる訳文の違いで、実際は同じく偶像のことです。先に述べた通り、エピファネスは紀元前二世紀にエルサレム神殿に、ゼウス神の偶像という「荒らす憎むべきもの」を据えました。

 これは、ダニエル書の預言の成就でもありました。しかしキリストは、この「荒らす憎むべきもの」に関するダニエルの預言が、なお終末の出来事にかかわっている、と言われるのです。
 紀元前二世紀のエピファネスの行為ですべてが成就し尽くしたのではなく、全く同じようなことが終末の時代にも繰り返される、というのです。
 実際、『ヨハネ黙示録』や『テサロニケ人への手紙』によれば、終末の時代にエルサレムは異邦人に踏みにじられ、その神殿内に偶像が置かれるはずです。
 『この獣(終末の時代に現われる独裁者)は・・・・その口を開いて、神に対するけがしごとを言い始めた。すなわち、神の御名と、その幕屋、すなわち天に住む者たちをののしった。・・・・  (この獣の部下である親衛隊長は)剣の傷を受けながらもなお生き返ったあの獣の像を造るように、地上に住む人々に命じた。・・・・また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた」(黙13-6、14〜15)。
 「彼(獣)は・・・・神の宮(エルサレム神殿)の中に座を設け、自分こそ神であると宣言します」(二テサ二・四)。
 神殿に設置されるこの偶像の「座」こそ、「荒らす憎むべきもの」なのです。
 このように、エピファネスが紀元前二世紀に行なったと同じことが、やがて終末の時代に再び「獣」によって行なわれるでしょう。
 エピファネスがエルサレムを踏みにじった期間は、約三年半であったことが知られています(紀元前一六七年の中頃〜一六四年一二月)。
 それと同様に終末の時代にも、エルサレムは「三年半の間」踏みにじられるのです(黙13-5)。



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第9章 定めの70週

〔09:01〕ダレイオスの治世第一年のことである。 ダレイオスはメディア出身で、クセルクセスの子であり、カルデア人の国を治めていた。 〔09:02〕さて、わたしダニエルは文書を読んでいて、エルサレムの荒廃の時が終わるまでには、主が預言者エレミヤに告げられたように七十年という年数のあることを悟った。 〔09:03〕わたしは主なる神を仰いで断食し、粗布をまとい、灰をかぶって祈りをささげ、嘆願した。 〔09:04〕わたしは主なる神に祈り、罪を告白してこう言った。
「主よ、畏るべき偉大な神よ、主を愛しその戒めに従う者には契約を守って慈しみを施される神よ、 〔09:05〕わたしたちは罪を犯し悪行を重ね、背き逆らって、あなたの戒めと裁きから離れ去りました。 〔09:06〕あなたの僕である預言者たちが、御名によってわたしたちの王、指導者、父祖、そして地の民のすべてに語ったのに、それに聞き従いませんでした。 〔09:07〕主よ、あなたは正しくいます。わたしたちユダの者、エルサレムの住民、すなわち、あなたに背いた罪のために全世界に散らされて、遠くにまた近くに住むイスラエルの民すべてが、今日のように恥を被っているのは当然なのです。 〔09:08〕主よ、恥を被るのはわたしたちであり、その王、指導者、父祖なのです。あなたに対して罪を犯したのですから。 〔09:09〕憐れみと赦しは主である神のもの。わたしたちは神に背きました。 〔09:10〕あなたの僕である預言者たちを通して与えられた、律法に従って歩むようにという主なる神の声に聞き従いませんでした。 〔09:11〕イスラエルはすべて、あなたの律法を無視し、御声に耳を傾けませんでした。ですから、神の僕モーセの律法に記されている誓いの呪いが、わたしたちの上にふりかかってきたのです。あなたに対して罪を犯したからにほかなりません。 〔09:12〕わたしたちにも、わたしたちを治めた指導者にも告げられていた主の御言葉は成就し、恐ろしい災難が襲いました。エルサレムに下されたこの災難ほど恐ろしいものは、いまだ天下に起こったことはありませんでした。 〔09:13〕モーセの律法に記されているこの恐ろしい災難は、紛れもなくわたしたちを襲いました。それでもなお、わたしたちは罪を離れて主なる神の怒りをなだめることをせず、またあなたのまことに目覚めることもできませんでした。 〔09:14〕主はその悪を見張っておられ、それをわたしたちの上に下されました。わたしたちの主なる神のなさることはすべて正しく、それに対して、わたしたちは御声に聞き従いませんでした。 〔09:15〕わたしたちの神である主よ、強い御手をもって民をエジプトから導き出し、今日に至る名声を得られた神よ、わたしたちは罪を犯し、逆らいました。 〔09:16〕主よ、常に変わらぬ恵みの御業をもってあなたの都、聖なる山エルサレムからあなたの怒りと憤りを翻してください。わたしたちの罪と父祖の悪行のために、エルサレムもあなたの民も、近隣の民すべてから嘲られています。 〔09:17〕わたしたちの神よ、僕の祈りと嘆願に耳を傾けて、荒廃した聖所に主御自身のために御顔の光を輝かしてください。 〔09:18〕神よ、耳を傾けて聞いてください。目を開いて、わたしたちの荒廃と、御名をもって呼ばれる都の荒廃とを御覧ください。わたしたちが正しいからではなく、あなたの深い憐れみのゆえに、伏して嘆願の祈りをささげます。 〔09:19〕主よ、聞いてください。主よ、お赦しください。主よ、耳を傾けて、お計らいください。わたしの神よ、御自身のために、救いを遅らせないでください。あなたの都、あなたの民は、御名をもって呼ばれているのですから。」
〔09:20〕こうしてなお訴え、祈り、わたし自身とわたしの民イスラエルの罪を告白し、わたしの神の聖なる山について、主なるわたしの神に嘆願し続けた。
 ダレイオス1世(前550年頃 - 前486年)は、アケメネス朝の王(在位:紀元前522年 - 紀元前486年)。
 一般にキュロス2世から数えて第3代とされるが、ダレイオス1世自身の言によれば第9代の王である。僭称者とされるスメルディス(ガウマータ)を排除して王位に就き、王国の全域で発生した反乱をことごとく鎮圧して、西はエジプト、トラキア地方から東はインダス川流域に至る広大な領土を統治した。彼は自らの出自、即位の経緯、そして各地の反乱の鎮圧などの業績をベヒストゥン碑文として知られる碑文に複数の言語で記録させており、これは近代における楔形文字と古代ペルシア語解読のための貴重な資料を提供した。また、今日にもその遺跡が残されているペルセポリスの建設を開始した王でもある。


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〔09:21〕こうして訴え祈っていると、先の幻で見た者、すなわちガブリエルが飛んで来て近づき、わたしに触れた。それは夕べの献げ物のころのことであった。 〔09:22〕彼は、わたしに理解させようとしてこう言った。
「ダニエルよ、お前を目覚めさせるために来た。 〔09:23〕お前が嘆き祈り始めた時、御言葉が出されたので、それを告げに来た。お前は愛されている者なのだ。この御言葉を悟り、この幻を理解せよ。
〔09:24〕お前の民と聖なる都に対して
       七十週が定められている。
     それが過ぎると逆らいは終わり
     罪は封じられ、不義は償われる。
     とこしえの正義が到来し
     幻と預言は封じられ
     最も聖なる者に油が注がれる。
〔09:25〕これを知り、目覚めよ。
     エルサレム復興と再建についての
     御言葉
が出されてから
     油注がれた君の到来まで
     七週あり、また、六十二週あって
     危機のうちに広場と堀は再建される。
〔09:26〕その六十二週のあと
     油注がれた者は、不当に断たれ、
     都と聖所は、
     次に来る指導者の民によって荒らされる。
     その終わりには洪水があり
     終わりまで戦いが続き
     荒廃は避けられない。
〔09:27〕彼は一週の間、多くの者と同盟を固め
     半週でいけにえと献げ物を廃止する。
     憎むべきものの翼の上に荒廃をもたらすものが座す。
     そしてついに、定められた破滅が荒廃の上に注がれる。」

〔エルサレム再建命令〕

 紀元前537年の初めごろ、ペルシャの王キュロス2世は、捕らわれていた者たちがエルサレムに帰還して神殿を再建することを許す布告を出した。
 総督ゼルバベルと大祭司エシュアに導かれた、4万2,360人の「流刑囚の子ら」に加えて、7,537人の奴隷や歌うたいたちが約4か月の旅をした。
 アイザック・リーサー訳の聖書の第6版の脚注は、その人数が婦女子を含めて約20万人に達したことを示唆している。彼らは秋の第7の月までに自分たちの都市に定住した。
 紀元前516年から紀元後70年までの間エルサレムの神殿の丘に第二神殿と呼ばれるユダヤ人の重要な神殿(エルサレム神殿)があった。
 それは紀元前586年のバビロン捕囚の際に破壊されたソロモンの第一神殿に代わって建設された。
〔ペルシャ帝国はユダヤ人に寛大な措置を取った〜エルサレム再建命令〕

☆  紀元前536年のエルサレム帰還(神殿の再建)。

☆  紀元前457年のエルサレム帰還(裁判官の任命〜広場と掘りの復興)。

   → 69週後(7×69)=483年後は紀元26年です。

☆  紀元前444年のエルサレム帰還(城壁の復興)。

 イエス・キリストは、エルサレム再建命令(紀元前457年)の六十九週後――四八三年後にあたる紀元二六年秋〜冬に、メシヤとして現われ、その三年半後〔半周後〕に十字架上で「断たれ」(ダニ九・二六)ました。
 こうしてダニエル書の69週と70週の預言のは、驚くべき正確さで成就したのです。
 残されているの半周に当たる3年半の預言成就だけ。

〔荒らす者が憎むべき者の翼に乗って来る〕

 口語訳の次の言葉「荒らす者が憎むべき者の翼に乗って来るでしょう」
 新改訳「荒らす忌むべきものが、翼に現われる」
 この「翼」は、七〇人訳聖書(旧約聖書の古代ギリシャ語訳)で「神殿」と訳されていることからもわかるように、神殿を表しています。
 つまり、「荒らす忌むべきもの」すなわち「荒らす憎むべきもの」が神殿に現われる、という意味。

〔2017年5月14日から3年半年後、日本が断たれる?〕

 2017年5月14日から3年半年後とは、2020年11月14日のこと。
 読み方によっては、この部分は成就していないと読めてしまう。



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第11章 ペルシャのその後

〔11:1〕わたしはまたメデアびとダリヨスの元年に立って彼を強め、彼を力づけたことがあります。
〔11:2〕わたしは今あなたに真理を示そう。見よ、ペルシャになお三人の王が起るでしょう。その第四の者は、他のすべての者にまさって富み、その富によって強くなったとき、彼はすべてのものを動員して、ギリシヤの国を攻めます。

 ペルシアの150年間ほどは、この預言の通りになってしまった。

(1)ダリウス1世(紀元前550年〜紀元前486年10月、イラン)
(2)クセルクセス1世(紀元前519年〜紀元前466年8月、イラン)
(3)アルタクセルクセス1世(〜紀元前424年8月、イラン)
(4)ダリウス2世(紀元前424〜404、イラン)



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〔11:3〕またひとりの勇ましい王が起り、大いなる権力をもって世を治め、その意のままに事をなすでしょう。 〔11:4〕彼が強くなった時、その国は破られ、天の四方に分かたれます。それは彼の子孫に帰せず、また彼が治めたほどの権力もなく、彼の国は抜き取られて、これら以外の者どもに帰するでしょう。

 ギリシアにはアレキサンダー大王(紀元前330〜320年代)が立つ。

 大征服の果て、しかも戦火の中でめぐりあった絶世の美女と結婚式をあげた直後に、アレキサンダーは31歳で突然病死する。
 同時に大帝国は4つに分割され、部下の将軍たちが一つづつ奪った。だが、ダニエルの預言の通り、アレキサンダーの力と栄光を継げたものはいなかった。
 ギリシャ、
 小アジア、
 シリア、
 エジプト
 ・・・の四つの国に分かれました。

 アンティオコス四世・エピファネスは、このうちのシリアを治めた、歴代の君主たちの一人です(在位紀元前一七五〜一六三年)。

〔11:5〕南の王は強くなります。しかしその将軍のひとりが、彼にまさって強くなり、権力をふるいます。その権力は、大いなる権力です。 〔11:6〕年を経て後、彼らは縁組をなし、南の王の娘が、北の王にきて、和親をはかります。しかしその女は、その腕の力を保つことができず、またその王も、その子も立つことができません。その女と、その従者と、その子およびその女を獲た者とは、わたされるでしょう。

 エジプト、プトレマイオス朝の始まり。

 アレキサンダーの死後、部下だった3人の将軍がアジアやヨーロッパの支配権を分け、さらにそのうちの一人(プトレマイオス)が南のエジプトを奪ってアレキサンドリアを都とした。
 これがプトレマイオス朝の始まり。
 王朝そのものは栄えるが、エジプトは常に北方の大敵ローマ帝国に脅かされた。そこで王女クレオパトラが女王の座と自分の魅力とを、国の存亡のためにかけ、北の王を誘惑しようとするが、これに失敗。
 この結果、アレキサンドリアは焼かれ、愛児シ-ザリオンも愛人アントニウスも殺され、彼女自身も毒蛇にバストを噛ませ、凄艶な自殺を遂げる。



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〔11:7〕そのころ、この女の根から、一つの芽が起って彼に代り、北の王の軍勢にむかってきて、その城に討ち入り、これを攻めて勝つでしょう。 〔11:8〕彼はまた彼らの神々、鋳像および金銀の貴重な器物を、エジプトに携え去り、そして数年の間、北の王を討つことを控えます。 〔11:9〕その後、北の王は、南の王の国に討ち入るが、自分の国に帰るでしょう。 〔11:10〕その子らはまた憤激して、あまたの大軍を集め、進んで行って、みなぎりあふれ、通り過ぎるが、また行って、その城にまで攻め寄せるでしょう。 〔11:11〕そこで南の王は、大いに怒り、出てきて北の王と戦います。彼は大軍を起すけれども、その軍は相手の手にわたされるでしょう。 〔11:12〕彼がその軍を打ち破ったとき、その心は高ぶり、数万人を倒します。しかし、勝つことはありません。 〔11:13〕それは北の王がまた初めよりも大いなる軍を起し、数年の後、大いなる軍勢と多くの軍需品とをもって、攻めて来るからです。 〔11:14〕そのころ多くの者が起って、南の王に敵します。またあなたの民のうちのあらくれ者が、みずから高ぶって事をなし、幻を成就しようとするが失敗するでしょう。 〔11:15〕こうして北の王がきて、塁を築き、堅固な町を取るが、南の王の力は、これに立ち向かうことができず、またそのえり抜きの民も、これに立ち向かう力がありません。 〔11:16〕これに攻めて来る者は、その心のままに事をなし、その前に立ち向かうことのできる者はなく、彼は麗しい地に立ち、その地は全く彼のために荒されます。 〔11:17〕彼は全国の力をもって討ち入ろうと、その顔を向けるが、相手と仲直りをし、その娘を与えて、その国を取ろうとします。しかし、その事は成らず、また彼の利益にはならないでしょう。 〔11:18〕その後、彼は顔を海沿いの国々に向けて、その多くのものを取ります。しかし、ひとりの大将があって、彼が与えた恥辱をそそぎ、その恥辱を彼の上に返します。 〔11:19〕こうして彼は、その顔を自分の国の要害に向けるが、彼はつまずき倒れて消えうせるでしょう。

 ローマのシーザー(紀元前100年〜暗殺紀元前44年3月15日)。

「ブルータス、お前もか」
 シーザは躓き倒れて消えた、



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〔11:20〕彼に代って起る者は、栄光の国に人をつかわして、租税を取り立てさせるでしょう。しかし彼は、怒りにも戦いにもよらず、数日のうちに滅ぼされます。

〔11:21〕彼に代って起る者は、卑しむべき者であって、彼には、王の尊厳が与えられず、彼は不意にきて、巧言をもって国を獲るでしょう。 〔11:22〕洪水のような軍勢は、彼の前に押し流されて敗られ、契約の君たる者もまた敗られるでしょう。 〔11:23〕彼は、これと同盟を結んで後、偽りのおこないをなし、わずかな民をもって強くなり、 〔11:24〕不意にその州の最も肥えた所に攻め入り、その父も、その父の父もしなかった事をおこない、その奪った物、かすめた物および財宝を、人々の中に散らすでしょう。彼はまた計略をめぐらして、堅固な城を攻めるが、ただし、それは時の至るまでです。 〔11:25〕彼はその勢力と勇気とを奮い起し、大軍を率いて南の王を攻めます。南の王もまたみずから奮い、はなはだ大いなる強力な軍勢をもって戦います。しかし、彼に対して、陰謀をめぐらす者があるので、これに立ち向かうことができません。 〔11:26〕すなわち彼の食物を食べる者たちが、彼を滅ぼします。そして、その軍勢は押し流されて、多くの者が倒れ死ぬでしょう。 〔11:27〕このふたりの王は、害を与えようと心にはかり、ひとつ食卓に共に食して、偽りを語るが、それは成功しません。終りはなお定まった時の来るまでこないからです。 〔11:28〕彼は大いなる財宝をもって、自分の国に帰るでしょう。しかし、彼の心は聖なる契約にそむき、ほしいままに事をなして、自分の国に帰ります。 〔11:29〕定まった時になって、彼はまた南に討ち入ります。しかし、この時は前の時のようではありません。 〔11:30〕それはキッテムの船が、彼に立ち向かって来るので、彼は脅かされて帰り、聖なる契約に対して憤り、事を行うでしょう。彼は帰っていって、聖なる契約を捨てる者を顧み用いるでしょう。 〔11:31〕彼から軍勢が起って、神殿と城郭を汚し、常供の燔祭を取り除き、荒す憎むべきものを立てるでしょう。 〔11:32〕彼は契約を破る者どもを、巧言をもってそそのかし、そむかせるが、自分の神を知る民は、堅く立って事を行います。 〔11:33〕民のうちの賢い人々は、多くの人を悟りに至らせます。それでも、彼らはしばらくの間、やいばにかかり、火に焼かれ、捕われ、かすめられなどして倒れます。 〔11:34〕その倒れるとき、彼らは少しの助けを獲ます。また多くの人が、巧言をもって彼らにくみするでしょう。 〔11:35〕また賢い者のうちのある者は、終りの時まで、自分を練り、清め、白くするために倒れるでしょう。終りはなお定まった時の来るまでこないからです。

◆シリアの暴君エピファネス (在位紀元前175〜163年)◆

 アンティオコス四世・エピファネスという名を、知らない人も多いかも知れません。しかしこの悪名高い名は、ユダヤ人の間では、忘れようとしても決して忘れられない名です。
 エピファネスは、紀元前二世紀にユダヤの聖なる神殿を荒らした人物で、そこにギリシャの神ゼウスの偶像という「荒らす憎むべきもの」を設置した者です。
 今日もユダヤ人は、毎年一二月頃に「ハヌカ」と呼ばれる「宮きよめの祭」をもっています。これは、かつてユダヤの神殿を、暴君エピファネスから解放し、清めた時のことを記念した祭です。
 「宮きよめの祭」は、イエス初臨の時代にも、ユダヤで毎年守られていました(ヨハ一〇・二二)。ユダヤ人は暴君エピファネスのことを、つねに心に刻み込んできたのです。
 さて、ダニエル書の預言を見る前に、エピファネスがどういう人物だったかということを、詳しく見ておきましょう。
 アンティオコス四世・エピファネスは、このうちのシリアを治めた、歴代の君主たちの一人です(在位紀元前175〜163年)。
「アンティオコス」の名を冠した君主は、全部で26人います。エピファネスは、アンティオコス四世として君臨したのです。
 「エピファネス」の名は「現神王」の意味で、その名のとおり彼は自分を神とし、自分を神と崇めるよう人々に強要しました。しかし人々は彼を皮肉って、「エピマネス」(狂人の意)とも呼びました。
 エピファネスが支配したシリアという国は、ユダヤの国の北隣に位置しています。
 一方、南隣には、やはりギリシャ帝国から分かれ出たエジプトの国がありました。
 それで旧約聖書のダニエル書の中では、エピファネスをはじめとするシリアの王は「北の王」と呼ばれ、一方エジプトの王は「南の王」と呼ばれています。
 さて、紀元前175年にエピファネスは、裏切りによってシリアの王位を手に入れました。
 その後彼は、南のエジプトに対する優位を決定的なものにするために、エジプトに出兵。エジプトを手中におさめました。
 この頃からエピファネスは、ユダヤのエルサレム神殿の調度品に、手を出していました。
 彼はかさむ戦費をまかなうために、その神殿から、多くの金の調度品を盗み出しました。しかも、異邦人には禁制の場所であった神殿の内部にまでも足を踏み入れ、神殿を汚したのです。
 当時、エルサレムにあった神殿は、「第二神殿」(ゼルバベル神殿)と呼ばれるものでした。
 エピファネスは、紀元前168年になって再度エジプトに侵入しました。
 しかしこの時は、ローマの艦隊の介入があり、撤退を余儀なくされました。
 エピファネスは腹いせに、エルサレムに戻り、その城壁をこわして家々に火を放ちました。また八万のユダヤ人を殺し、四万人を捕囚とし、さらに四万人の女・子どもを奴隷として売り払いました。
 彼は、反抗するユダヤ人を徹底的に弾圧。
 ユダヤ人に対して、
 ・神殿での犠牲の奉献や、
 ・安息日の遵守、
 ・割礼の執行、
 ・律法の書の所持
 ・・・などの行為のすべてを、禁止しました。
 そしてこれらの命令に背く者に対しては、死罪をもって報いたのです。
 しかもエピファネスは、エルサレム神殿に、ギリシャの多神教の主神である「ゼウス神」を祭りました。彼はその偶像を聖なる神殿に置き、その祭儀に人々が参加するよう強要したのです。
 こうして彼は、神聖なユダヤの神殿を無残にも踏みにじった悪名高い人物として、すべてのユダヤ人の間で記憶されています。

◆ダニエル書には、エピファネスに関する預言がある◆

 この当時の歴史については、「マカベア書」という古代ユダヤ文書に、とくに詳しく記されています。
 最近プロテスタントとカトリックの学者が共同で訳した「新共同訳聖書」には、旧約聖書の続編として、この「マカベア書」が入っています。
 「マカベア書」というのは、旧約聖書の正典に組み入れられなかった書物ですが、当時のエピファネスの行動を知る上で、重要な歴史書です。またこの書には、エピファネスの支配下からエルサレムを取り戻し、神殿を清めたユダヤ人の英雄「マカベアのユダ」についても記されています。
 旧約聖書の正典にも、エピファネスのことが記されています。旧約の『ダニエル書』には、彼のことが預言の形で記されているのです。
 ダニエル書は、紀元前六世紀に、預言者ダニエルが記したものです。
 近代の懐疑的な批評学者の中には、この書は紀元前二世紀に書かれたと主張した者もいますが、この書が事実紀元前六世紀に記されたことは、多くの学者の研究によって充分立証されています。ダニエル書は、エピファネスより四百年も前に記された、預言の書なのです。
 さてダニエル書には、エピファネスとその前後の歴史について、次のように記されています。
 「私ダニエルにまた、一つの幻が現われた。・・・・見ると、なんと一頭の雄羊(ペルシャ帝国をさす)が川岸に立っていた。それには二本の角があった(ペルシャ帝国がメディアとペルシャの連合体であったことをさす)。
 ・・・・
 私が注意して見ていると、見よ、一頭の雄やぎ(ギリシャ帝国)が、地には触れずに、全土を飛び回って、西からやって来た。その雄やぎには、目と目の間に、著しく目立つ一本の角(アレキサンドロス大王)があった。
 ・・・・
 雄やぎは雄羊に近づき、怒り狂って、この雄羊を打ち殺した(ペルシャ帝国の滅亡)。
 ・・・・
 この雄やぎは非常に高ぶったが、その強くなった時に、あの大きな角が折れた(アレキサンドロス大王の死亡)。
 そしてその代わりに、天の四方に向かって、著しく目立つ四本の角が生え出た(ギリシャは四つの国に分裂した)。
 そのうちの一本の角(シリアの王)から、また一本の小さな角(エピファネス)が芽を出して、南(エジプト)と、東と、麗しい国(ユダヤ)とに向かって、非常に大きくなっていった。
 それは大きくなって・・・・軍勢の長にまでのし上がった。それによって、(エルサレム神殿の)常供のささげ物(犠牲)は取り上げられ、その聖所の基はくつがえされる。軍勢は渡され、常供のささげ物に代えて、そむきの罪がささげられた。
 その角は真理を地に投げ捨て、ほしいままにふるまって、それをなし遂げた」(ダ8-1〜12)。
 ダニエルが見たこの夢に関して、ところどころに( )をして説明を入れましたが、これは私が勝手に入れたわけではありません。ダニエル書自体が、夢の意味について次のような解き明かしをしているので、それに基づいて入れたものなのです。
 「あなたが見た雄羊の持つあの二本の角は、メディアとペルシャの王である。
 毛深い雄やぎはギリシャの王であって、その目と目の間にある大きな角は、その第一の王(アレキサンドロス大王)である。
 その角が折れて、代わりに四本の角が生えたが、それはこの国から四つの国が起こることである。しかし第一の王のような勢力はない。
 彼らの治世の終わりに、彼らのそむきが窮まるとき、横柄で狡猾なひとりの王(エピファネス)が立つ。
 彼の力は強くなるが、彼自身の力によるのではない。彼はあきれ果てるような破壊を行ない、事をなして成功し、有力者たちと聖徒の民を滅ぼす。
 彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君(神)に向かって立ち上がる。しかし人手によらずに、彼は砕かれる」(ダ8-20〜26)。  このような預言が、エピファネスの現われる四百年も前に記されていたとは、まことに驚くべきことです。
 この預言の中で、帝国は"動物"で象徴され、王はその「角」で表されています。そして最後に現われた「小さな角」は、やがて大きくなり、高ぶって卑劣なことをなしました。
 この最後の「角」こそ、アンティオコス四世・エピファネスのことなのです。

◆エピファネスはユダヤ神殿に「荒らす憎むべきもの」を据えた◆

 ダニエル書11章にはまた、エピファネスの行動について、さらに詳しいことが預言されています。
 こう書かれています。
 「ひとりの卑劣な者(エピファネス)が起こる。
 ・・・・
 彼は再び南へ攻めていくが(エジプトへの二度目の侵攻をさす)、この二度目は、初めの時のようではない。
 キティムの船(ローマの艦隊)が彼に立ち向かって来るので、彼は落胆して引き返し、聖なる契約(モーセの契約)にいきりたち、ほしいままにふるまう。
 彼は帰って行って、その聖なる契約を捨てた者たちを、重く取り立てるようになる(エピファネスは、ユダヤ人背教者を重く取り立てた)。
 彼の軍隊は立ち上がり、聖所(エルサレム神殿)ととりで(エルサレム城壁)を汚し、常供のささげ物を取り除き(いけにえを禁止)、荒らす忌むべきものを据える(エピファネスによって神殿に置かれた偶像のこと)」(ダ11-21〜31)。

 このようにダニエル書は、ギリシャ帝国から分かれ出た四つの国のひとつから「ひとりの卑劣な者」が起こること、また二度目のエジプト侵攻の後に彼は神殿を汚すこと、また神殿に偶像を置くことなどを、預言していました。
 これらはみな、紀元前二世紀のアンティオコス四世・エピファネスの出来事として成就したのです。
 しかし、ダニエルの預言がもし単にこれだけなら、私たちはこれを過去に成就した預言の一例として、心にとどめて終わりになるところでしょう。
 ところが、ダニエル書によればこのエピファネスに関する預言は、単に紀元前二世紀の出来事をもってすべてが成就し尽くしたのではなく、なお、
「終わりの定めの時にかかわる」(ダ8-20)
ことだと言われているのです。
紀元前二世紀のエピファネスの出来事は、預言成就の"第一段階"にすぎない。"第二段階"あるいは"最終段階"の成就は、世の終末が間近になった時代に起こる、というのです。

 これは、私たちの主イエス・キリストの御言葉も裏づけています。キリストは、終末が間近になった時代のことについて、次のように語られました。
 「それゆえ預言者ダニエルによって語られたあの『荒らす憎むべきもの』が、聖なる所(神殿)に立つのを見たならば・・・・」(マタ二四・一五)。
 この「荒らす憎むべきもの」と、先の「荒らす忌むべきもの」とは、単なる訳文の違いで、実際は同じく偶像のことです。先に述べた通り、エピファネスは紀元前二世紀にエルサレム神殿に、ゼウス神の偶像という「荒らす憎むべきもの」を据えました。

 これは、ダニエル書の預言の成就でもありました。しかしキリストは、この「荒らす憎むべきもの」に関するダニエルの預言が、なお終末の出来事にかかわっている、と言われるのです。
 紀元前二世紀のエピファネスの行為ですべてが成就し尽くしたのではなく、全く同じようなことが終末の時代にも繰り返される、というのです。
 実際、『ヨハネ黙示録』や『テサロニケ人への手紙』によれば、終末の時代にエルサレムは異邦人に踏みにじられ、その神殿内に偶像が置かれるはずです。
 『この獣(終末の時代に現われる独裁者)は・・・・その口を開いて、神に対するけがしごとを言い始めた。すなわち、神の御名と、その幕屋、すなわち天に住む者たちをののしった。・・・・  (この獣の部下である親衛隊長は)剣の傷を受けながらもなお生き返ったあの獣の像を造るように、地上に住む人々に命じた。・・・・また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた」(黙13-6、14〜15)。
 「彼(獣)は・・・・神の宮(エルサレム神殿)の中に座を設け、自分こそ神であると宣言します」(二テサ二・四)。
 神殿に設置されるこの偶像の「座」こそ、「荒らす憎むべきもの」なのです。
 このように、エピファネスが紀元前二世紀に行なったと同じことが、やがて終末の時代に再び「獣」によって行なわれるでしょう。
 エピファネスがエルサレムを踏みにじった期間は、約三年半であったことが知られています(紀元前一六七年の中頃〜一六四年一二月)。
 それと同様に終末の時代にも、エルサレムは「三年半の間」踏みにじられるのです(黙13-5)。



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〔11:36〕この王は、その心のままに事をおこない、すべての神を越えて、自分を高くし、自分を大いにし、神々の神たる者にむかって、驚くべき事を語り、憤りのやむ時まで栄えるでしょう。これは定められた事が成就するからです。 〔11:37〕彼はその先祖の神々を顧みず、また婦人の好む者も、いかなる神をも顧みないでしょう。彼はすべてにまさって、自分を大いなる者とするからです。 〔11:38〕彼はこれらの者の代りに、要害の神をあがめ、金、銀、宝石、および宝物をもって、その先祖たちの知らなかった神をあがめ、 〔11:39〕異邦の神の助けによって、最も強固な城にむかって、事をなすでしょう。そして彼を認める者には、栄誉を増し与え、これに多くの人を治めさせ、賞与として土地を分け与えるでしょう。

〔11:40〕終りの時になって、南の王は彼と戦います。北の王は、戦車と騎兵と、多くの船をもって、つむじ風のように彼を攻め、国々にはいっていって、みなぎりあふれ、通り過ぎるでしょう。〔11:41〕彼はまた麗しい国にはいります。また彼によって、多くの者が滅ぼされます。しかし、エドム、モアブ、アンモンびとらのうちのおもな者は、彼の手から救われましょう。 〔11:42〕彼は国々にその手を伸ばし、エジプトの地も免れません。 〔11:43〕彼は金銀の財宝と、エジプトのすべての宝物を支配し、リビヤびと、エチオピヤびとは、彼のあとに従います。 〔11:44〕しかし東と北からの知らせが彼を驚かし、彼は多くの人を滅ぼし絶やそうと、大いなる怒りをもって出て行きます。 〔11:45〕彼は海と麗しい聖山との間に、天幕の宮殿を設けるでしょう。しかし、彼はついにその終りにいたり、彼を助ける者はないでしょう。

◆エピファネスの死に方は、ダニエル書に記されたものとは違った◆

 また、終末の「獣」がエピファネスの再来であることを示す、もう一つの重要な事柄があります。
 それは、
 "紀元前二世紀のアンティオコス四世・エピファネスの死に方は、ダニエル書11章に記されたものとは全く違った"
 ということです。
 ダニエル書11章には、先に見たように、エピファネスの行動が記されています。それは史実にピタリと一致しています。
 しかしそれは35節までのことで、残りの36〜45節は、紀元前二世紀のエピファネスの行動と全然一致していません。
 紀元前二世紀のエピファネスは、二度目のエジプト遠征のあと、先に見たようにエルサレムを攻撃し、そこを占領して神殿を荒らし回りました。しかしやがてユダヤ人による反乱が起き、マカベアのユダという指導者の手によってエルサレムは奪回され、神殿も清められました(紀元前164)。
 このときエピファネスは、東方に兵を進めていたので、ユダヤの反乱については彼の部将にまかせるしかなかったのです。

 ところがエピファネスは、その陣中で、ある日急死しました。

 紀元前163年春のことです。
 マカベアのユダが神殿を清めてのち、わずか数か月後に、エピファネスは何の戦功をおさめる間もなく、急死したのです。
 これはダニエル書11章36〜45節の記している姿と、全く違っています。それらの節には、
「終わりの時に、南の王が彼と戦いを交える。北の王は・・・・彼を襲撃する。彼は麗しい国(イスラエル)に攻め入り、多くの国々が倒れる」(ダ11-四〇〜四一)
 と記されていますが、こうしたことは紀元前二世紀のエピファネスには起こりませんでした。
 したがって、これは終末の時代に再来するエピファネスがなす行動、としかとれないわけです。
 ダニエル書も「終わりの時に・・・・」と言っています。エピファネスは終末の日に再来して、これらのことをなすのです。
 エピファネスは、その再来の際に、おそらく通常の人間のように女の胎から生まれるでしょう。しかし彼は、紀元前二世紀のエピファネスの「霊と力をもって」再来するのです。
 ちょうど、バプテスマのヨハネが預言者エリヤの「霊と力をもって」(ルカ一・一七)現われ、エリヤの再来と言われたように(マタ11・一四)、終末の「獣」はエピファネスの再来と言われるでしょう。
 旧約時代の「エリヤ」は、新約時代において再来して「バプテスマのヨハネ」という名を持ちました。同様に、再来したエピファネスは終末の時代にあって、新しい名を持つでしょう。
 しかしその「霊と力」は、かつてのエピファネスのものなのです。彼の新しい名は、数字に換算すれば「六六六」になるでしょう。

◆エピファネスは再来する◆

 黙示録は、エピファネスの再来である「獣」について、こう言っています。
 「あなた(使徒ヨハネ)に、この女(大バビロン)の秘儀と、この女を乗せた、七つの頭と一〇本の角とを持つ獣の秘儀とを話してあげましょう。
 あなたの見た獣は、昔はいたが、今はいません。しかし、やがて底知れぬ所(よみ)から上って来ます。そして彼は、ついには滅びます。
 地上に住む者たちで、世の初めからいのちの書に名を書き記されていない者は、その獣が、昔はいたが、今はおらず、やがて現われるのを見て驚きます」(黙17-七〜八)。
 人々は、紀元前の人物エピファネスが「獣」として再来するのを「見て驚く」のです。
 さらに黙示録は述べています。
 「ここに知恵の心があります。(獣の)七つの頭とは、この女(大バビロン)がすわっている七つの山で、七人の王たちのことです。
 五人はすでに倒れたが、ひとりは今おり、ほかのひとりはまだ来ていません。しかし彼が来れば、しばらくの間とどまるはずです。
 また、昔いたが今はいない獣について言えば、彼は八番目でもありますが、先の七人のうちのひとりです。そして彼はついには滅びます。
 あなたが見た一〇本の角は、一〇人の王たちで、彼らはまだ国を受けていませんが、獣と共に、一時だけ王の権威を受けます」(黙17-9〜12)。
 ここに出てきた「女」とは、終末の時代に世界に君臨する悪の都のことで、黙示録では象徴的に「大バビロン」の名で呼ばれています。
 大バビロンは、じつはエルサレムのことだと思われます。
 聖都エルサレムは、たいへん悲しいことですが、終末の時代に悪人たちによって踏みにじられ、恐ろしい悪の都と変えられてしまうのです(黙示11-2、8)。
 エルサレムの地を支配した異邦人の世界帝国は、これまでに七つあります。
(1) エジプト帝国(紀元前一六〇〇〜一四〇〇年)
(2) アッシリヤ帝国(紀元前七二一〜六〇七年)
(3) バビロン帝国(紀元前六〇六〜五三六年)
(4) ペルシャ帝国(紀元前五三六〜三三〇年)
(5) ギリシャ帝国(紀元前三三〇〜一四六年)
(6) ローマ帝国(紀元前一四六〜紀元一四五三年)
(7) トルコ帝国(一〇三八〜一九二二年)
〔トルコ帝国は、セルジュク・トルコとオスマン・トルコ。なお、トルコ帝国と同じイスラム教国であるサラセン帝国(六六一〜一二五八年)も、しばらくエルサレムを支配しましたが、サラセン帝国は東ローマ帝国からのキリスト教巡礼者たちに対しても寛大で、交易を行なっていました。それで、上の七つの国からは除外してあります。しかしトルコ帝国は、巡礼者たちを排し、エルサレムを専有したので、第七番目の国としてあげました〕。
 これら七つの帝国が、エルサレムのすわった「七つの山」であり、「七人の王たち」です。
 というのは、黙示録では「王」は単に個人をさすとは限らず、しばしば「国」の同義語としても用いられています(黙17-二)。したがって「七人の王たち」といえば、この場合、「七つの国」と同じ意味と考えてさしつかえないのです。
 これら七つの国のうち、黙示録の記された時代は、(6)のローマ帝国の時代でした。それで、
 「五人はすでに倒れたが、ひとりは今おり、ほかのひとりはまだ来ていません。しかし彼が来れば、しばらくの間とどまるはずです」
 と言われています。
 黙示録の記された当時、エジプト、アッシリヤ、バビロン、ペルシャ、ギリシャの五帝国は、「すでに倒れ」ていました。そして六番目のローマ帝国が「今おり」、やがて七番目のトルコ帝国が来ようとしていたのです。
 黙示録はさらに記しています。
 「昔いたが今はいない獣について言えば、彼は八番目でもありますが、先の七人のうちのひとりです。そして彼はついには滅びます」。
 終末の時代に「獣」は、八番目の帝国をつくるのです。そしてエルサレムを支配するようになります。しかし、じつを言えば彼は先の七つの国の王たちの一人でもある、というのです。
 アンティオコス四世・エピファネスは、(5)ギリシャ帝国の王の一人でした。ギリシャ帝国の分国の王だったのです。その意味で彼は、
 「先の七人のうちのひとりです」
 という黙示録の言葉と合っています。
 このように終末の「獣」は、エピファネスの再来なのです。

◆「ヨハネの黙示録」9章の第六の天使がラッパを吹いた◆

〔黙9-13〕第六の天使がラッパを吹いた。
 すると、神の御前にある金の祭壇の四本の角から一つの声が聞こえた。 〔黙9-14〕その声は、ラッパを持っている第六の天使に向かってこう言った。
「大きな川、ユーフラテスのほとりにつながれている四人の天使を放してやれ。」
〔黙9-15〕四人の天使は、人間の三分の一を殺すために解き放された。この天使たちは、その年、その月、その日、その時間のために用意されていたのである。 〔黙9-16〕その騎兵の数は二億、わたしはその数を聞いた。 〔黙9-17〕わたしは幻の中で馬とそれに乗っている者たちを見たが、その様子はこうであった。
 彼らは、炎、紫、および硫黄の色の胸当てを着けており、馬の頭は獅子の頭のようで、口からは火と煙と硫黄とを吐いていた。 〔黙9-18〕その口から吐く火と煙と硫黄、この三つの災いで人間の三分の一が殺された。 〔黙9-19〕馬の力は口と尾にあって、尾は蛇に似て頭があり、この頭で害を加えるのである。 〔黙9-20〕これらの災いに遭っても殺されずに残った人間は、自分の手で造ったものについて悔い改めず、なおも、悪霊どもや、金、銀、銅、石、木それぞれで造った偶像を礼拝することをやめなかった。このような偶像は、見ることも、聞くことも、歩くこともできないものである。 〔黙9-21〕また彼らは人を殺すこと、まじない、みだらな行い、盗みを悔い改めなかった。


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第12章 大天使長ミカエルが立つ

〔ダ12-01〕その時、大天使長ミカエルが立つ。
 彼はお前の民の子らを守護する。
 その時まで、苦難が続く
 国が始まって以来、かつてなかったほどの苦難が。
 しかし、その時には救われるであろう
 お前の民、あの書に記された人々は。
〔ダ12-02〕多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。
 ある者は永遠の生命に入り
 ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。
〔ダ12-03〕目覚めた人々は大空の光のように輝き
 多くの者の救いとなった人々は
 とこしえに星と輝く。
〔ダ12-04〕ダニエルよ、終わりの時が来るまで、お前はこれらのことを秘め、この書を封じておきなさい。多くの者が動揺するであろう。そして、知識は増す。」
〔ダ12-05〕わたしダニエルは、なお眺め続けていると、見よ、更に二人の人が、川の両岸に一人ずつ立っているのが見えた。 〔ダ12-06〕その一人が、川の流れの上に立つ、あの麻の衣を着た人に向かって、
これらの驚くべきことはいつまで続くのでしょうか」
 と尋ねた。
〔ダ12-07〕すると、川の流れの上に立つ、あの麻の衣を着た人が、左右の手を天に差し伸べ、永遠に生きるお方によってこう誓うのが聞こえた。
「一時期、二時期、そして半時期たって、聖なる民の力が全く打ち砕かれると、これらの事はすべて成就する。
〔ダ12-08〕こう聞いてもわたしには理解できなかったので、尋ねた。
「主よ、これらのことの終わりはどうなるのでしょうか。」
〔ダ12-09〕彼は答えた。
「ダニエルよ、もう行きなさい。終わりの時までこれらの事は秘められ、封じられている。 〔ダ12-10〕多くの者は清められ、白くされ、練られる。逆らう者はなお逆らう。逆らう者はだれも悟らないが、目覚めた人々は悟る。 〔ダ12-11〕日ごとの供え物が廃止され、憎むべき荒廃をもたらすものが立てられてから、千二百九十日が定められている。 〔ダ12-12〕待ち望んで千三百三十五日に至る者は、まことに幸いである。 〔ダ12-13〕終わりまでお前の道を行き、憩いに入りなさい。時の終わりにあたり、お前に定められている運命に従って、お前は立ち上がるであろう。」
「一時期、二時期、そして半時期たって、聖なる民の力が全く打ち砕かれると、これらの事はすべて成就する。
 1945年8月15日に日本は完全降伏。
 1948年5月14日にイスラエル建国。


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